2011年3月5日土曜日

不当な解雇(リストラ)が争われた裁判例

今日は、不当解雇(リストラ)に触れている判例を紹介します(つづき)。 

(1)定年退職に伴う退職手当請求権が、「更生手続開始後の更生会社の財産の管理及び処分に関する費用の請求権」に当たらないことは明らかであるから、本件においては、定年退職に伴う退職手当請求権が、「更生手続開始後の更生会社の事業の経営に関する費用の請求権」に当たるか否かが問題となる。
「事業の経営に関する費用」とは、原材料の購入費、従業員の給料、工場その他の施設及び機械・器具の維持・修繕費用、賃借費用、電気・ガス・水道等の料金、事業経営に係わる各種租税、社会保険料等が、これに当たるとされているところ、これらの費用は、更生会社の事業を更生させ、その企業価値を増大させ、更生債権者等に対する計画弁済を増加させるために支払われるものであるところから、共益債権に当たると解されているものである。
(2)そこで、退職手当請求権が、「事業の経営に関する費用」に当たるか否かについて検討する。
 まず、たとえば、更生手続開始決定後の解雇や募集による希望退職のように、会社都合による退職に伴う退職手当請求権については、更生管財人が、従業員を解雇したり、希望退職者を募ることにより、人員を削減し、それによって事業の更生を円滑にし、更生債権者等に対する弁済を増大させることができるという事業上の判断を行った上で実施するものであるから、解雇された従業員や希望退職の募集に応じた従業員が退職することによる更生に対する寄与は大きいものと解される。したがって、更生手続開始決定後の解雇や募集による希望退職によって生じた退職手当請求権は、会社更生法127条2号により、その全額が共益債権として扱われるべきであると解される。
(3)相手方は、定年退職の場合も、会社の人員構成の高齢化を防止する人事管理の必要上行われるものであって、会社都合による退職の一場合と解されるから、定年退職に伴う退職手当請求権は、解雇の場合と同様、会社更生法127条2号により、その全額が共益債権として扱われるべきであると主張するところ、これに沿う学説もある。また、会社更生法の昭和42年改正時の立法担当者(法務省民事局長)は、参議院法務委員会において、同法208条(現行127条)に関し、定年退職の場合等においては、208条の適用により、その退職手当請求権が全額共益債権となる旨答弁している。
(4)前記(2)のとおり、更生手続開始決定後の解雇や募集による希望退職のように、会社都合による退職の場合は、定年に達する以前に退職することになるため、退職手当請求権の弁済期が、更生手続に起因して早まり、本来の定年による退職手当請求権の弁済期よりも前倒しして支払う義務が生じるのであるが、人員整理を行うことにより、事業の更生を円滑にし、更生債権者等に対する弁済を増大させることに資するから、「事業の経営に関する費用」として、共益債権に当たるものとされている。
 しかしながら、定年退職に伴う退職手当請求権は、更生手続の開始とは無関係に、従業員が定年を迎えることにより生じるものであり、本来予定されていた弁済期に債権が発生するにすぎず、更生手続の開始によって事態が変化したわけではない。したがって、定年退職に伴う退職手当請求権は、更生手続開始決定後の解雇や募集による希望退職等に伴う退職手当請求権とは異なり、更生会社の事業を更生させ、その企業価値を増大させ、更生債権者等に対する計画弁済を増加させるために支払われるものとはいえず、会社更生法127条2号にいう「更生手続開始後の更生会社の事業の経営に関する費用の請求権」には当たらないと解するのが相当である。
 なお、立法担当者の意図や見解は、裁判所による法解釈の際に参考とはなるが、裁判所が必ずしもこれに拘束されるものではない。
なお、不当解雇(リストラ)について専門家に相談したい方は、不当解雇(リストラ)に強い弁護士に相談してください。また、企業の担当者で、従業員の解雇についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、保険会社との交通事故の示談交渉刑事事件多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返却(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。