2011年2月3日木曜日

刑事事件の判例

今回は、刑事事件に係る裁判例を紹介します。

本件における虚偽記載半期報告書提出罪及び虚偽記載有価証券報告書提出罪の各共同正犯の成否について,職権で判断する。
1 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は次のとおりである。
(1)しろあり駆除等を目的とする株式会社Aの当時の代表取締役であるBらは,仕手筋に資金を提供してA株の価格を高値に誘導する株価操縦を行っていたが,資金が続かなくなり,仕手筋からA株を買い取ることで仕手筋との関係を終わらせることとした。
(2)Bは,Aからその子会社を経由して,上記買取りのための資金60億円を借り受けた上,知人のCの提案に従い,Cを営業者とする匿名組合や外国銀行を通じて,上記資金によりA株200万株を買い取った。
(3)Bは、当時Aと会計監査契約を締結していた監査法人が半期末の中間監査の準備作業として行う期中監査の時期を控え,上記60億円の返済のめどが立たなかったため,額面30億円のパーソナルチェック2通(以下併せて「本件パーソナルチェック」という。)を振出してAに差し入れ,Aでは,これによって上記60億円が返済された旨の会計処理をした。Bには本件パーソナルチェックを現実に決済し得るだけの資力はなく,Aの経理担当取締役は,従業員に対し,支払呈示をすると不渡りになるので本件パーソナルチェックを金庫に保管しておくよう指示した。 
(4)上記中間監査を迎えるに際し,Bは,Cに協力を依頼し,BとCとの間において,Cが経営する株式会社D(以下「D」という。)に対してAが本件パーソナルチェックを預けることによって,AがDに60億円を預託してその運用を任せた形を仮装することが合意され,日付を上記半期末前にさかのぼらせた消費寄託契約書が作成された。Cは,Bに本件パーソナルチェックを決済する資力がないことを認識しており,本件パーソナルチェックを支払呈示に回すつもりもなかった。
(5)その後,Aは,半期の決算に当たり,「預け金60億円」を計上し,「重要な資産の内容」として「預け金60億円消費寄託契約に基づく企業買収ファンド事業会社への資金の寄託であります。」との注記を加えた中間貸借対照表を掲載した半期報告書を作成し,関東財務局長に提出した。
(6)Bは,上記監査法人から,期末決算の際には上記預け金60億円の運用状況を精査する旨の連絡を受けていたが,期末が近付いても,現金60億円の調達等によって上記預け金に仮装した60億円の出金の処理をすることはできなかった。そこで,Bは,Cに協力を依頼し,BとCとの間で,Cが経営していた株式会社Eの株式をBの自己資金を用いて一株25万円で売ってもらうこと,書類上は,これをAが60億円で買い取り,その代金をDに預けていた本件パーソナルチェックで支払った形にすることが合意された。
(7)さらに,BとCらEの株主との間で,CらがE株式2100株を代金合計5億2500万円でBが実質的に支配する会社に売却し,同会社が自社保有分を併せた同株式2600株を額面60億円でAに売却する形をとることが合意され,Bは,Cらに対し,上記代金のうち合計4億7500万円を支払った。
(8)その後,Aは,決算に当たり,「主な資産及び負債の内容」のうちの「関係会社株式」として「(株)E 60億円」と記載した貸借対照表を掲載した有価証券報告書を作成し,関東財務局長に提出した。
2 以上の事実関係によれば,AとDとの間の前記消費寄託契約は仮装されたものであり,本件パーソナルチェックはDにおいて60億円を運用するために交付されたものではないから,AがDに対して60億円に相当する財産を寄託したということはできず,前記1(5)の半期報告書の預け金に関する記載は,重要な事項につき虚偽の記載をしたものと認められる。また,本件パーソナルチェックは支払呈示をしないことを前提に交付されたものであり,E株式の買収に当たっても,その代金支払手段とされたものとは認められないから,同株式を60億円で取得したということはできず,前記1(8)の有価証券報告書の同株式の取得価額の記載も,重要な事項につき虚偽の記載をしたものと認められる。
3 被告人は,公認会計士であり,当時,前記監査法人において,その代表社員の一人であるとともに,Aに係る監査責任者の地位にもあったが,原判決の認定及び記録によれば,被告人は,仕手筋からA株を買い取ることについてBから相談を受けていたところ,BがAから借り受けた60億円をA株200万株の買取り資金に充てたこと,Bには60億円を現実に調達する能力がなく,本件パーソナルチェックが無価値のものであること,前記消費寄託契約がAからDに60億円を預託した形を仮装するものにすぎないこと,E株式は,Bの資金を用いて一株25万円で買収されたものであって,本件パーソナルチェックを対価として買収されたものではないこと等を認識していたほか,Aから出金された上記60億円に関する会計処理等について,Bらに対して助言や了承を与えてきたものであって,虚偽記載を是正できる立場にあったのに,自己の認識を監査意見に反映させることなく,本件半期報告書の中間財務諸表及び本件有価証券報告書の財務諸表にそれぞれ有用意見及び適正意見を付すなどしたというのである。このような事実関係からすれば,被告人は,前記2のとおり虚偽記載のある本件半期報告書及び本件有価証券報告書をBが提出することを認識するとともに,このことについてB及びCと共謀したとして,被告人に虚偽記載半期報告書提出罪及び虚偽記載有価証券報告書提出の各共同正犯が成立するとした原判断は正当である。
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