2009年8月12日水曜日

時間外勤務手当

今日は、サービス残業の残業代請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。

8 原告ら付添婦は、患者のレントゲン撮影の際に体の向きを変えたり、患者に薬を飲ませたり、患者の喉から痰を取ったり、酸素吸入をしたり、点滴を手伝ったりするなど、本来看護婦がすべき作業の一部を行わされてきた旨主張する。証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、右事実を認めることができるが、右は概ね常時介護を要する患者については付添看護に当然随伴する行為であるか、又は便宜上付添婦が自主的に行っているに過ぎないと認めることができるから、この点も原被告間の労働契約の成立に直接結び付くものとはいえない。
9 原告ら付添婦は、担当の患者が死亡した場合、被告から二日分の付添料を患者の親族に返還することを強要されていた旨主張するが、本件全証拠によるも、被告が原告に対し、右返還を命令・強要したとまでは認められない。たしかに、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、従前被告が付添婦らに対し、右返還を事実上促したことは認められるが、右は、被告がかつてそのような状況下では常に返還等を実行してきており、それが妥当な態度であるとの信念に裏打ちされたものであって(被告本人の個人的信条に基づく行動を原告ら付添婦にも求めようとした嫌いがあるが)、これをもって、原被告間の労働契約締結の事実が導かれるものとはいえない。
10 原告は、被告が患者を死なせた階の看護婦と付添婦を一階の事務所まで呼びつけた上、神社へお参りし、その御札を買ってくるように指示・命令していたことがあり、その時間分及び二日分の給料をカットしていた旨主張する。
 しかし、本件全証拠によるも、右事実を認めるに足りる的確な証拠は存在しない。右認定に反する原告本人供述は採用することができない。
11 原告は、平成五年三月までは小松原から、その後は山口事務長から毎月の付添料の支払を受けたこと、その際、付添料の入った封筒は、以前被告が経営していた結婚式場「豊生殿」や料亭「魚善」の名が記載されていたこと、被告病院の経理担当者木之下恭子が付添婦の手数料についてもチェックしていたこと、原告が被告病院から就労を拒否された平成五年一二月七日以降、山口事務長から三度にわたり未払付添料を取りにくるようにとの要請があったことなどを主張し、右は、いずれも被告が原告を雇用していた証左である旨主張する。
 しかし、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被告病院内で勤務する付添婦に対する付添看護料の支払手続は、毎月初めころ、三国紹介所の職員が各病院へ赴き、同紹介所が付添婦に代行する形で各患者から付添費を集金した上、各月一五日ころに三国紹介所の職員が各病院へ赴き前記各患者から集金した付添料のうちから所定の手数料を差し引いた金額を付添料として直接原告らに支払う(各付添婦は、患者宛の付添料の領収書を作成し、紹介所を介して患者又はその家族に交付する)というものであったことが認められ、右事実によれば、毎月付添料の支払手続をしていたのは、被告病院ではなく、三国紹介所であることが認められるから、右認定に反する原告主張は採用することができない。
 もっとも、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、三国紹介所が右付添料を支払う際、小松原や山口事務長がその受渡しの手伝いをしたことがあること、山口事務長が平成五年一二月七日以降、二度にわたって原告に対し未払付添料の受取を催促したこと、被告病院の経理担当者である木之下恭子の印が三国紹介所の手数料領収書に押捺されていること、付添料の入った封筒の表には、以前被告が経営していた結婚式場「豊生殿」や料亭「魚善」の名が記載されたものがあったことなどの事実が認められるが、前記認定に照らせば、事実上小松原等が三国紹介所の事務を手伝った(あくまで三国紹介所の事務の代行)に過ぎず、被告が原告に対し付添料を支払ったものではないと認められ、また、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、木之下恭子は、三国紹介所のオーナー会社である淀ノ海株式会社の監査役であったことが窺えるから、右木之下恭子が三国紹介所の事務を取り扱っても特段不自然とはいえず、さらに、証拠(略)によれば、使用した封筒についても、廃品の有効利用をしたに過ぎないことが窺えるのであるから、右各事実から原被告間の労働契約の締結を推認しうるものではない。
12 原告は、被告病院が一般入院案内の冊子中に「付添にお困りの方は当病院で付添看護させて頂きます」と記載し(書証略)、また、老人用の入院案内の冊子中に「入院を希望される患者さんで家族等の付添が出来なくて困っておられる方達の為に当院は無料で責任をもって看護致しております」(書証略)などと記載していることをもって、被告が付添婦を雇用していたことの証左である旨主張するが、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、右は、例えば(書証略)記載中に「(還付式)」とあるように(文言に若干不明確なきらいはあるが)、後記のとおり患者が付添婦と個別契約を締結し、付添料を支払った後に保健等により還付金が支給されることを簡略に述べたに過ぎないことが窺えるのであって、右記載をもって、原被告間の労働契約締結の事実の証左とみることはできない。
13 原告は、平成四年一二月七日、被告病院に入院中の患者が院内を歩き回っていたことに被告が立腹し、担当でない原告を責める発言をしたので、これに原告が反論するや、突然原告に対し、「クビだ、もう帰れ」と怒鳴ったと主張し、右は、被告が原告を雇用した(との認識を有していた)ことの証左である旨主張するが、(原告本人の供述の外)右事実の存在を窺わせる証拠はなく、かえって、(書証略)等これに反する証拠が存在することに照らせば、右事実を認めるには足りないというべきである。
14 右のとおり、原告の主張する個々の事実は、(証拠上認められないか、または、証拠上認定できる事実であっても)それぞれ単独では到底原被告間の労働契約締結の事実を推認させるに足りるものではない。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料金やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返却請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。