2009年7月12日日曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。 

2 また、原告は、仮に被告主張のごとく患者と原告との契約関係であったとすると、個々の患者との契約内容の決定は、右両者の合意によることになるはずであるが、実際には、被告病院がすべてを決定していたのであって、患者と合意する余地はなかった旨主張し、右のように、契約条件等につき事前に被告病院がすべてを決定していたことは、原被告間の支配・従属関係を如実に示しており、原被告間の労働契約締結の事実を示すものにほかならない旨主張する。
 なるほど、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被告病院の入院患者が支払っていた付添看護料は、患者一人につき一日三六五〇円と一律であったこと、付添婦の勤務時間(昼勤)は、概ね午前八時から午後六時であったこと、原告の勤務場所は、被告病院の二階(患者の担当)であったこと、右各契約条件が全体として被告の意向に沿う内容であったこと、被告病院に勤務する付添婦は、三国紹介所の紹介を受けた上、勤務に付いていたこと、右紹介に先立ち、三国紹介所が前記条件で勤務することについて付添婦の了解を得た上、被告病院に紹介する取扱いであったことなどが認められ、右事実によれば、契約条件の決定については、相当程度被告の意思が反映しているといわざるを得ない。
 しかし、もともと、患者が付添婦との間で契約を締結するに当たって、患者自身が、付添看護の内容、付添料の額、その他契約条件について適切な判断をすることは難しいこと、したがって、被告病院が付添婦との契約条件の決定に事実上事前に関与し、付添料等の契約条件につき、患者にとって不利にならないよう、後見的立場から行動することが十分考えられること(そのため、患者の意思が明確に表面化しないことがありうる)、付添婦が現実に看護等を実施する場所は被告が管理する病院内であって、被告としても、右施設管理運営上の立場から付添婦の契約条件につき一定の関心を持たざるを得ないところ、被告本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、被告にあっても、右の後見的立場から行動したと認められることを考慮すれば、付添婦の被告病院内での契約条件の決定につき、被告の意向がかなりの程度反映されていたとの事実があったとしても、右が直ちに原被告間の労働契約締結の事実を推認させるものとはいえない(付添婦と患者との契約関係については、後記のとおりである)。
3 次に、原告は、被告病院では他の従業員とともに付添婦も必ず朝礼に参加させられ、そこで被告から勤務上の指示、命令を受けていた旨主張する。
 しかし、証拠(略)上、付添婦が被告病院の朝礼に参加していたこと及びその席で被告から勤務上の指示等があったことは認められるものの、他方、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、右朝礼への参加の趣旨は、前記施設管理運営上の観点及び患者に対するサービス確保の観点から慣例となっていたに過ぎないことが窺われるのであって、右事実は原被告間の労働契約締結の事実を推認させるに足りるものではない。
4 原告は、被告病院の四階には被告設置に係るタイムレコーダーが存在しており、被告は、これを基に付添婦の出勤状況を管理していた旨主張し、現に、前記朝礼では小松原がそのタイムカードを見ながら点呼をとっていたと主張する。
 しかし、証拠(略)上、タイムレコーダーが被告病院四階に設置されていたこと及び小松原が右タイムカードを朝礼の際の点呼に利用していたことが認められるものの、
本件全証拠によるも、右タイムレコーダーが被告病院によって設置されたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、付添婦以外の者で被告病院に雇用される者に関しては、別のタイムレコーダーによって人事管理され、付添婦は別個に処遇されていたこと、右タイムレコーダーによって打刻されたタイムカードは、三国紹介所が定期的に回収した上、これを基に各付添婦の勤務日数・付添料の計算等をしていたことが認められ、右事実を総合すれば、むしろ右タイムレコーダーは三国紹介所の管理下にあったことが窺われるから、点呼につき右タイムカードを被告病院が事実上利用していたとしても、右は原被告間の労働契約の存否の認定につき決定的な事実となるものではない。
5 原告は、被告病院では、少なくとも三日に一度(場合によっては、二日に一度)づつ交替で付添婦に対し、本来の担当患者(二人)以外の患者についても夜勤を命じていた旨主張する。
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、付添婦が交替で夜間勤務をしていたことは認められるが、本件全証拠によるも、右が被告の命令によりなされていたとまでは認め難く、かえって、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、夜勤交番については、各階の付添婦の協議により決定されていたこと,右取扱いが長年にわたり続けられてきたことが認められ、その意思決定過程に被告が関与したことを認めるに足りる十分な証拠も存しないことも勘案すれば、右取扱いは事実上長年にわたり慣例的に実施されていたものに過ぎず、結局、原告が担当以外の患者について夜勤をしていたとしても、このことにより、直ちに原被告間の労働契約の成立を推認し得るものではない。
6 原告は、夜勤の際、付添婦が被告病院の見回り等の警備業務をさせられていた旨主張するが、本件全証拠によるも、右主張を認めるに足りる証拠はない。わずかに、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、病室及び病室の階の廊下の見回りを付添婦が交替でしていたことを認めることができるものの、付添婦が被告の命令下に、右程度を超え、より広範な警備業務をさせられていたとまでは認めるに足りない。証拠上認められる前記夜間勤務についても、各付添婦がそれぞれの担当患者につき常時付添を要する場合が多いとの看護実態に照らし、夜間歩き回ったり危険な行為に及ぶ患者がいないかなどを監視すべく実行しているものに過ぎないとみることが可能であるから、この点も、直ちに原被告間の労働契約の認定に導び付くものではない。 
7 原告は、付添婦が一日に二回、廊下、階段、トイレ、ごみ捨て場、病院裏等の掃除を被告病院から命ぜられていた旨主張するが、本件全証拠によるも、右主張を認めるに足りる十分な証拠は存在しない。証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、付添婦が担当患者のいる場所及びその関連場所につき清掃していたとの事実を認めることができるが、右行為は、付添看護に通常付随するものとして、付添婦が自主的に行っていたものに過ぎないと認めることができる。しかし、被告の命により、右範囲を越えてより広範な場所について付添婦が清掃をしていたと認めるに足りる十分な証拠はない。したがって、この点も労働契約の成否を左右しないというべきである。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料金やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返却請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。