2009年9月29日火曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。 

二 もっとも、既に認定済みの前記事実中の原告に有利な諸事実に加え、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、三国紹介所のオーナー会社である淀ノ海株式会社と被告(ないし被告病院)との間に人的構成や出資面で一定の繋がりが存することが認められ、これらの事実を総合すれば、被告が(右三国紹介所を通じて)付添婦の契約条件の決定や付添婦が付添に従事する態勢のあり方について、事実上相当程度の支配を及ぼしていたことを認めることができるところ、右支配の程度にかんがみれば、原被告間に事実上の支配関係ありとみて、原告主張の労働契約の成立を認める余地も全くないではないということができる。
 しかしながら、ある当事者間に労働契約が成立したと認められるためには、労働契約も契約である以上、最終的には両当事者の意思(表示)が労働の対価として賃金を支払うとの内容に収斂されているか否かをメルクマールにせざるを得ないのであって、証拠上右当事者間に事実上の支配関係が認められるだけでは足りないものというべきである。
 これを本件についてみるに、前記のとおり、原被告間には、事実上、一定程度の支配関係の存在を認めることができるが、他方、前記のとおり原告の主張自体、労働契約締結意思の存在を疑問視させる種々の難点をはらむばかりか、かえって、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、右両当事者の意思が労働契約の締結に向けられたものではないことを窺わせる以下の事実が認められる。
1 平成四年三月当時、基準看護の認定を受けている病院は、全体の三分の一程度(しかも、その大半は、相当な設備を擁する大病院)であり、被告病院も基準看護の認定は受けていなかった。基準看護の認定を受けていない病院においては、(a)被保険者等の病状が重篤で絶対安静を必要とし、医師又は看護婦が常時監視することを要し、随時適切な処置を講ずる必要がある場合、(b)病状は必ずしも重篤ではないが、手術のために比較的長期にわたり医師又は看護婦が常時監視を要し、随時適切な処置を講ずる場合、(c)病状から判断し常態として体位変換又は床上起座が不可又は不能あるいは食事及び用便につき介助を要する場合につき、特別に当該医療機関に所属しない看護担当者(原則として看護婦であることが必要。ただし、(c)の場合には、患者の家族等身内の者でなく、かつ、主治医又は看護婦の指揮を受けることを条件に、付添婦等の看護補助者が担当してよい)をして看護を行わせることができ(この場合は、個々の患者と付添婦との契約関係となる)、その際、患者から看護担当の付添婦等に対して支払われた付添料については、療養費として、健康保健法等において各患者の請求により一定額が償還される制度となっていた。

2 原告は、昭和六〇年一〇月から同六一年二月ころまで訴外松崎病院で看護補助者として雇用され、入院患者の世話をしたことがあり、また、平成元年三月ころからは、大阪府西田辺所在の訴外阪南会(付添看護婦等の紹介所)に所属し、平成三年三月ころまでの間に、平野区所在の緑風会及び西田辺所在の越川外科病院に入院する患者の付添看護をしていた。右緑風会及び越川外科病院での付添看護の法律関係は、病院との雇用関係ではなく、右1記載のとおり、個々の患者と原告間の契約に基づくものであった。その当時の紹介手数料の支払システムは、患者の交替毎に右手数料一回分を(患者から預かって)紹介所に渡すという方法であった。また、毎月の付添看護料の支払方法は、右阪南会所定の額(担当する患者一人当たりいくらと決めた額)を患者から直接受け取って右阪南会に渡した上、阪南会が諸々の費用等を引いた額を原告に渡すというものであった。原告は、右付添看護の経験から、少なくとも平成四年三月には、紹介所を介する場合の患者との契約関係、手数料徴収及び付添看護料の支払・償還のシステムについて、相当程度の知識を有していた(原告本人はこれを否定し、領収書等還付請求の必要書類につき全く知識はなかった旨供述するが、同人の緑風会及び越川外科病院での勤務状況に関して詳細かつ明確な説明を展開する同人の供述態度等に照らせば、原告の右供述は、到底採用することができない)。

3 被告病院では、(原告以外の)付添婦については、自己の立場(法律関係)につき個々の患者との契約関係であることについて、特に付添婦から異論等はなく、かえって、原告以外の付添婦は、皆積極的に自己が被告に雇われた者でないことを自認していた。他の付添婦の法的立場・被告病院での取扱いが右のとおりであったことにつき、原告自身も、当然に熟知していた(原告本人供述中には、これを否定する部分があるが、原告は、前記のとおり、松崎病院において、雇用関係にある看護補助者の経験があり、また、前記緑風会等において、個々の患者と個別契約を結ぶ付添婦の経験も有するのであるから、他の付添婦がいかなる立場で勤務しているかについては、当然一定の関心があって不思議でなく(原告本人尋問によれば、同僚の付添婦との間で、勤務時間、手当内容、控除項目等につき、話し合った旨の供述がある)、また、後述のとおり、原告が患者宛に提出すべき書類には、原告が被告病院の外部の者である旨の記載があった(原告は、その書式の体裁及び従前の知識から当然それを認識しえたとみられる)のであるから、なおさら、他の付添婦との日常会話等でこの点を確認しようとしなかったというのは不自然であり、原告の右供述は到底採用できない)。
4 患者による前記1記載の還償請求には、看護に要した費用の領収書、看護証書等が必要書類とされており、被告病院では、右領収書と看護証明書が一体となった書式を用い、それぞれの欄に原告ら付添婦が署名(捺印)した上、これを患者に交付し、患者が還付金を受け取るという方式を採用していた。原告は、毎月、右領収書と看護証明書が一体となった書面(これには、前記のとおり、原告ら付添婦が被告病院の外部の者であることが明記されている)の所定欄に署名・捺印して提出していたが、その際、被告との法律関係が労働契約として取り扱われていないことにつき、被告に対し、何ら異議等も述べることはなかった。
5 被告病院では、被告との間で労働契約を締結した者については、わずかの例外を除けば、すべて労働契約書を交付していたが、原告との間では、右契約書の交付はなされていなかった。
企業の方で、残業代請求についてご不明な点があれば、顧問弁護士にご相談ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料金やサービス内容が異なりますので、比較することをお勧めします。その他にも、個人の方で、交通事故の示談交渉解雇敷金返却・原状回復義務借金の返済刑事事件遺言や相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。