2009年10月22日木曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

6 被告の従業員(看護補助者を含む)については、毎月の給料から源泉徴収や社会保険料等の控除がなされていたが、原告の受け取る付添料からは、被告によって源泉徴収等の控除はなされておらず、また、原告は、被告病院において付添に従事していた間も、一貫して、国民健康保険に加入しており、被告に対し、健康保険への加入手続を求めたことはなかった。また、原告は、被告に対し、厚生年金等への加入の手続の要請をしたりすることも一切なく、被告の従業員として取り扱われていないことに対し、何ら異議等を述べることはなかった。
7 被告病院に勤務する付添婦に対する付添料の支払方法・手順は、毎月初めころ、三国紹介所の職員が病院へ赴き、原告ら付添婦に代行して各患者から付添費を集金した上、各月一五日ころに右三国紹介所の職員が各病院へ赴き前記各患者から集金した付添料のうちから、所定の手数料を差し引いた残額を付添料として直接付添婦に支払う(各付添婦は、毎月二五日までに、前記4の(看護証明書兼)領収書を作成し、患者は右書面により還付請求をする)というものであった。この点は、被告病院に入院中の患者の付添婦全員について同様であり、原告も、その例外ではなかった。
8 被告病院の従業員の給料は毎月末日に五階の経理係で支払われており、また、右従業員の勤務時間は午前九時から午後五時半であったのに対し、弁論の全趣旨によれば、付添料は、毎月一五日に一階事務室で支払われ、勤務時間は午前八時から午後六時であることが認められる。原告主張のとおり、原告が被告の従業員であるならば、他の従業員との間に、同じ従業員であるのに明らかな差異が存することになるが、人事管理上、かかる取扱上の差異を設けるべき根拠に乏しいことにかんがみると、原告が被告従業員であるとの前提自体に疑問があるといわざるを得ない。
9 被告病院では、付添を要する入院患者につき、入院費用の(点数)計算上、付添費用分を加えていなかった。
10 付添婦については、従業員には存在する賞与の支給や退職金の制度の適用は予定されていなかった。この点は、原告も、その例外ではなかった。
 加えて、前記認定のとおり、被告病院に勤務する付添婦は、三国紹介所の紹介を受けた上、勤務に付いていたこと、右紹介に先立ち、三国紹介所が前記条件で勤務することについて付添婦の了解を得た上、被告病院に紹介する取扱いであったことが認められるところ、証拠(略)によれば、原告も、その例外ではないことが認められる(この点の原告本人の供述は措信し難い)。なお、原告は、三国紹介所と被告病院との一体性を強調するが、前記のとおり右両者間に一定の繋がりが存することは認められるものの、証拠上、右程度を越えて両者が完全に一体であったとは認め難いのであるから、原告の右主張は採用できない。
 以上認定事実を総合すれば、前記のとおり原被告間に一定程度支配関係が存在するにもかかわらず、右当事者双方が(原告の労務提供の代償として被告が賃金を支払う旨の)労働契約締結の意思を有していたと認めることは到底困難というべきであり、他に原被告間に労働契約が成立したと認めるに足りる的確な証拠も存在しない。
三 以上のとおりであって、本件全証拠によるも、原告と被告との間に労働契約が成立したとの事実を認めることは到底できない。
 かえって、以上認定に係る事実によれば、原告は、被告との間に労働契約関係になく、患者との契約関係に過ぎないということができる。すなわち、原告は、労働契約の成立により、被告の従業員となった旨主張しながら、契約書など、これを認めるに足りる十分な証拠が存しないばかりか、原告が被告病院において、入院患者の付添に従事していた間に、被告に対し、積極的に他の従業員と同様の地位と取扱いを求めるなど一切しておらず(原告は、小松原に対し、賃金について、採用時の契約条件と違う旨の異議を申入れたと主張するが、これを認めるに足りる十分な証拠はない。真に、原告の賃金額が採用時の契約条件と違っていたのであれば、原告は、被告に対し、継続的に異議を申し入れて当然であるが、かかる事実は全くない。なお、本件において、原告は、原告が被告に対し、従業員としての地位と取扱いを求めて抗議を申し入れるなどしたと主張することさえない)、他の付添婦と同様の地位と取扱い(なお、原告は、被告病院で付添いをした付添婦全員が被告の従業員であるとまで主張するものではない)を受けることにさしたる疑問も感じることなく付添業務に従事していたことにかんがみ、原告自身、他の付添婦と同様、被告との間に労働契約関係になく、患者と契約関係にあるに過ぎないことを十分に認識していたということができる。なお、前記認定のとおり、被告により、原告ら付添婦全員に対し、事実上の支配関係ともいうべき一定の関係が存するが、それは、原告を含む付添婦全員に対し、共通のものであって、原告固有のものではないし、右関係は、あくまでも、原告ら付添婦が被告病院において、その入院患者の付添いに従事することから、被告が患者の後見的な立場にあって、より充実した付添看護を受けることができるよう、また、その地位が不利となったりしないよう一定の配慮等をするために形成されていたに過ぎないというべきであるので、右関係が存するからといって、右認定を左右するものではない。結局、原告は、他の付添婦は患者と契約関係にあったに過ぎないというべきである。
四 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないので、失当としてこれを棄却し、主文のとおり判決する。
企業の方で、残業代請求などについてご不明な点があれば、顧問弁護士にご相談ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士費用やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。その他にも、個人の方で、交通事故の示談交渉解雇刑事事件借金の返済敷金返却や原状回復(事務所、オフィス、店舗)遺言や相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。